『一本の樹木は森である』
一本の樹木にもよく見れば小さなクモやアリ、あるいはもっと小さなコケや菌類などがたくさん宿っており、そこに蝶がかすめ飛び、鳥が休み、時にはタヌキなどが木の実を食べに訪れます。つまり一本の樹木はひとつの森のような存在なのです。
したがってひとつの樹木を伐ることは、ひとつの森を滅ぼすことです。
十本の樹木なら十の森、百本なら百の森、三千本ならば三千の森を私たちは潰してしまうのです。
「鎮守の森」というように、私たちは森に神社を造り、長い寿命を持つ樹木から仏像を彫り出し、暮らしの原点である里山を樹木のもとにこしらえてきました。
ゆえに一部の限られた人々の経済的利益のために多くの森を破壊することは、日本文化の自滅です。
どうか木々を救っていただきますよう、私たち自身で救えますよう、強く願っています。
いとうせいこう