2008年の5/23にアップされていたものを掲載し直す。
 素早く書いたコントだが、ふと思い出してみたら愛着があった。

 我ながら、一時間以内に書いたにしては、いい出来だと思う。
 著作権フリーなので、出版以外ならいくらでも使ってください。
 特に演劇部の方々などには最適か、と。

  


『首吊り』

 明転。
 舞台中央に一本の木。
 首吊り死体がぶら下がっている。

 下手から男A。死体に気づく。
 小さな間。
 やがて、死体はおもむろに顔を上げ、Aを見つめる。

死体「あのー、つかぬことをうかがってもよろしい……」
A 「はい」
死体「……私、死んでますでしょうか?」
A「はい」
死体「そうですか………死んで」
A「ああそれよりすみません、今何時か教えていただけませんか?時計忘れちゃって。ほんと、もー何やってんだか…」

 小さな間。

死体「あ、死んでる……ので、ちょっと腕見られなくて……。すみません」
A「そうですよね、まいったな、彼女もう来ちゃうかな。」(動揺してあたりを見回す)
死体「よかったら、左腕。時計したまま死んじゃってるんで、見てもらえれば。」
A「わ、助かったあ! すみません!」

 A、死体の腕を持ち上げ時計を見ると、少し乱暴に離し……。

A「あと10分しかないじゃん!!」

 大あわてで荷物を取り出し、キャンドルを配置したりシートを敷いたりし始めるA。

死体「え? どなたかと待ち合わせですか? ここで?」
A「はい。美奈子と。今日、僕、プロポーズするんです」
死体「(泣きそうになりながら)ここで?」
A「はい。初デートがまさにここ、この木の下だったんです。ピクニックしましてね。美奈子、ほんとにかわいかった。いや、今もかわいいんですけど。で、今日はその思い出のピクニックを完全再現して」
死体「(割って入るように)あの、完全再現にならないと思うんですよね」
A「はい?」
死体「ほら、ぶら下がっちゃってるから」
A「ああ、気にしないでください。僕が完全再現してるのは木の下のことで、上の方がどうなってたかはもう覚えてませんし」
死体「いやあ、少なくともこういう状況じゃなかったと思うんですけど……」
A「あ、この指輪(カバンから出し)、どう思います?」
死体「……彼女に?」
A「はい!」
死体「今日、ここで?」
A「はい!」
死体「…………かえすがえすもごめんなさい!(必死に頭を下げる)」
A「あのですね、この指輪、どっか冴えたところに隠しておいて、そこからジャーンって出して、美奈子を驚かそうと思ってたんですけど、この(死体の左手をとり)指にはめちゃだめですか?」
死体「いや、それはまずいでしょう」
A「(すでにはめ終え、少し離れたところから確認すると)あ、これいい。絶対ばれない」
死体「ばれないっていうか、縁起の問題ですよ、これは」

 A、聞かずにピクニックの用意を再開する。

死体「受け取ってくれないと思いますよ。せっかくの贈り物ががぜん盗品っぽさをただよわせちゃうっていうか……。あ(下手を見て)、誰か来た!」
A「(下手を見て)来てます?」
死体「俺は少し高いとこにいるから見えるんですけどね。女ですよ。美奈子さんじゃないかな、あれ!?」
A「あ、美奈子です! 美奈子が来ました!」

 A、必死に用意のラストスパート。

A「うわ、緊張するなあ」
死体「俺も頂点だあ」

 美奈子、下手からAに気づき、小走りに来て。

美奈子「うわあ、キャンドル、サンドイッチ、お花、私のためにこんなに色々……(死体をじっと見る)」
死体「…………(目が合ってわずかな間。そのあと、あわてて手を振り)あ、わたしは違いますよ」

 するとAが、死体の手をとがめるように見ている。

 死体、振った手に指輪がはめてあるので、あわてて下におろす。

 小さな間。

 死体、もう一方の手で指輪をさっと隠す。

 暗転。