<オポジション>あるいはオーソドックス・オポジション

P4

 また、孤立したマス目を守るには、敵キングが前から攻撃してくるかどうかによって、3つもしくは5つの方法がある。図3。

readymade by いとうせいこう-3


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<O君註:黒が図面の+マークを付けたd7から、白キングの利きを排除する(孤立したマス目とする)には、dキング:
  ●Kd7もしくはKe7として白キングをすぐ追い払う。
  ●Kc7と待機して、白キングがd7への利きから離れるのを待つ(次に白キングはKd6とはできない)。
  ●Kc8と待機して、以下、Kd6 Kd7。
  ●Kc8と待機して、以下、Kd6にKb7とさらに待機して、以下、Ke6にKc7。
   以上,計5つの方法。
 eキング:
  ●Kd7、Ke7として白キングをすぐ追い払う。
  ●Kf7として、以下Kd6 Ke7、Kc6 Kd7として追い払う。
   以上,計3つの方法。
 fキング:
  ●Ke7として白キングをすぐ追い払う。
  ●Kf7として、以下Kd6 Ke7,Kc6 Kd7として追い払う。
  ●Kg7と待機して、以下Kd6 Kf7、Kc6 Ke7。
   以上、計3つの方法>


<いとう註:さて、難解なP4の最後の図版まで来た。ここで黒キングはd8にも現れ、+字はd7にだけ打たれている。図1からの流れを見れば、黒Ke8から黒Kf8、そしてKd8と左右両側に動いた3パターンの例が挙げられたわけである。ただし、それぞれに「同じ横列の3つ以上のマス目を守る」場合、「同じ縦列の、もしくは同じ横列の、隣り合った2つのマス目を守る」場合、「孤立したマス目を守る」場合、と防御の意識は多層的である。
 おそらく、図3は多層的な防御意識の中で、d7というマス目を死守するには……と考えた場合を示しており、黒キングがd8に入れば次に白キングがd6と対峙し、黒キングはそれをc8もしくはe8と受けて、あくまでもd7への利きを保持することになる。
 O君註では「Kd7」「Ke7」「Kf7」を黒キングの手として与えているが、これはe6にいる白キングからすれば自殺手ではないだろうか。もともとe8(図1)に陣取っていた黒キングは、d8かf8にしか動けない。この図3では一例として、d8に黒キングが入った場合を図示しており、白キングが自分の利きを手放さない対象はd7となる(白Kd6と攻撃の手をゆるめず)。
 もちろん、白Kd6となれば、白キングはc7d7e7を黒キングとともに支配する。だが、次に黒キングがc8に動いたとし、白がe7に侵入すると仮定する。となると、盤面の端に追いつめた黒キングを白キングは逃がしてしまうことになる。d7は互いに譲らないとしても、これはポーンエンディングにとって致命的なミスになる。自由になった黒キングは図の手前の領域へと動き出し、この図にはないが残った白ポーンを狙いに行くことは確実だからである。
 ポーンエンディングでは、互いのポーンが角を突き合わせて止まっている。ポーンは真ん前の駒を取ることが出来ず、斜め前の駒のみを奪うので、そのような凍りついた盤面が生じるのである。そこへ黒キングが動き出すのは危険きわまりない。ひとつでもポーンを取れば、ダムのようにせき止められていた盤面に急変化が起こる。邪魔な白ポーンを外された黒ポーンは、ぐんぐんと盤面手前の端に進み、到着した途端(将棋の駒が「成る」のと同じく)キング以外のあらゆる駒に変化してしまうからだ。最強の駒クイーンになれば、もはや黒の勝ちは確実となる。
 ということは、黒Kc8に対して白Ke7はあり得ない。僕程度の素人考えでも白Kc6とし、キング同士の対峙を狙い続ける以外ないのだ。これがオポジションの基本である。
 ただ、デュシャンとハルバーシュタットはここで「3つもしくは5つの方法がある」と言っている。図1ではたったひとつ、図2ではふたつ、そして図3で孤立したマス目のみを守るとなると「3つもしくは5つ」。これが非常に難しい。おそらく、「敵キングが前から攻撃してくるかどうかによって」が重要なポイントであり、白Kd6か白Kf6かによって、黒の手は限られながら増えるということだろう。
 基本はあくまでも図1の黒Ke8。もし白Kd6なら、黒Kd8か黒Kf8、あるいは黒Kf7と上がって抜け出す。ここには3つの動きがある。
 また白Kf6なら、黒Kd8か黒Kf8、もしくは黒Kd7と上がる。これも3つ。
 動きを5つに増やすには、O君の解釈通り、(黒Ke8から)黒Ke7、黒Kf7というふたつの自殺手を加えるしかない。動きを原理的に考えれば、ということなのだろうか。もしくは僕のルールに関する認識不足か。
 ここは何度考えてもわからない。+字はむしろ理解の妨げになり、黒キングの左右への増殖もまた事を複雑にしている。
 どなたかのご示唆を待つしかない。
 
 しかし、少なくともこの図3にオポジションの基本概念が潜んでいることは確かであり、「敵キング」と書かれた対象が白キングだということも明確になった。デュシャンとハルバーシュタットは、あくまでも黒としてゲームを始めているのだ。対して白はルーセルであるというのが「55ノート」における僕の仮説だから、この図3は非常に重要なのである。
 続いてP5になると、デュシャンらははっきりと「オポジション」を指し示すようになる。
 留保付きではありながら、このP4を土台として以後の翻訳を進めていく>