<オポジション>あるいはオーソドックス・オポジション

 同時に、同じファイル(訳者註:縦列)の、もしくは同じ横列の、隣り合った2つのマス目を守る方式は2つある。図2。


readymade by いとうせいこう-2


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<O君註:黒が図面の+マークを付けた隣り合った2つのスクエア(同じランク)を守るには、
 eキング:Kd8と待機するか、Ke7と前に出る(アタック)。
 fキング:Kg8もしくはKg7と待機するか、Ke7もしくはKf7とアタックする。
 つまり、待機か、アタックかの2つの方式がある>

<いとう註:O君の解釈(+字は右にズレている)を敷延すれば、この図2の+字はd7、e7の上にあるということになる。そして、ここでさらに“つまずき”が増す。参照例であるはずの+字のうち、d7上のそれは意味をなさないからだ。二つの黒キングの二種類の動きのうち(待機か、アタックか)、重なりがあるのはKe7のみなのである。
 では、ここで「印刷の工夫の誤り」が左にズレている可能性を考えてみよう。デュシャンらが言いたかったのは、+字をもっと右に打つパターンだったという考えである。図2だと、+字は本来e7、f7の上にあるべきだということになる。
 図1に戻って、この考え方の上に立てば、図1の+字はd7、e7、f7の上に来る。がしかし、こうなると、図1に付いた文言「3つ以上のマス目を守る方法は1つしかない」という解が成立しなくなってしまう。黒キングはd8にもf8にも動くことが出来、それぞれc7d7e7、e7f7g7というマス目と、自分のいる横列の左右のマス目を支配出来るからだ。つまり、「3つ以上のマス目を守る」ことは出来るのだが、解は2つに分裂してしまうのである。
 O君はだからこそ、「+字は右にズレている」と考えた。図2で言えばd7、e7の上にある、と。
 さて、しかしこの場合においても「アタック」という選択が理解不能になる。eキングがKe7と動くのは自殺手である。fキングがe7およびf7と「アタック」する場合も同様である。白キングによって自滅する場所に黒キングを置くことは出来ないのだ。
 では「2つある」方式とは一体なんなのか?
 ここでは暫定的に、「図2は図1の延長であり、f8の黒キングは2つある方式のうちのひとつの動きを示したものだ」と考えてみたい。すると、もうひとつは単純に黒Kd8ということになる。
 この時、2つの+字(d7、e7上)はあくまでも図1の延長として、e8に位置する黒キングが支配を続けるべき隣り合った横列(ランク)のマス目を示したと解釈されるだろう。
 くわしく言えば、例の盤面外の黒丸は図2において黒白両者に打たれている。これは新たな謎である。白番をも同時に示す意味はないからだ。
 P4はやはり手ごわい。この4ページ目は本当に難解、もしくはもっとあっさりと解釈されるべきかもしれない>

<いとう雑感:ボビー・フィッシャーの唐突な身柄拘束は(おそらく政治的取引に使われたと思われる)、この55ノート、せめて55-9のためだけにも是非解かれて欲しい。あの天才なら一読、「つまりこういうことだ」と本質を一言で表わしてしまうだろう。二十世紀初頭に各界の注目を集めたポーン・エンディング(デュシャン、ルーセルはもちろんベケットもまた御存知のようにまさに『エンド・ゲーム』という戯曲を書き、実際にデュシャンとチェスをもした)は、当時のヨーロッパの思考の真髄に触れているはずで、すなわちこの問題は我々の想像をはるかに越えた存在意義を持っているのだから>