$readymade by いとうせいこう


 冬が来ると、グラジオラスの仕込みということになる。
 感覚は漬物の仕込みに近い。
 たいていはプラスチックの容器に水を入れ、球根をセットする。
 それで冷蔵庫にしまう。
 正月を迎える頃、一気に日光に当て、室温を春の到来と勘違いさせるためだ。
 それで花の少ない初春を楽しむのである。
 
 今年は球根を二個もらった。
 容器も野暮だしということで、グラスに入れて書斎に置き、根を出させた。
 おかげでクラゲ状である。
 で、クラゲの面白さに魅かれていたら、冷蔵庫に入れるのを忘れた。
 先端からは芽が出てきている。
 この成長を止めるべきか、すでに勘違いしている球根を咲かせてしまうか。
 
 なんにせよ、グラジオラスは勘違いの塊である。
 勘違いが根を出し、芽吹き、勘違いが咲くようなものである。
 俺のごときおっちょこちょいには格好の植物かもしれない。



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