引っ越しました。一週間前に。
 で、今日、9割くらい片付いた。
 ただし、ADSLの工事が追いつかず、今もダイアルアップ接続だ(12日まで!)。くそ。

 さて、片付いてきた家のことですが、「風の詩人(風の匠じゃなくて、ビフォーアフターでは正式にこういう名前でした)」、岩野兄妹のすすめですべての壁と天井に珪藻土を塗り、植物の力で温度差を小さくすることに成功。
 色は薄いピンク。
 俺が自分のフランシス・ベイコン好きを再認識し(おかげでこの一ヶ月ほど、シルヴェスターの『肉への慈悲』、アルシャンポーの『フランシス・ベイコン 対談』、ペピアットの『フランシス・ベイコン』、ジル・ドゥルーズ『感覚の論理』と読み進めているのだった)、特に色でいえばそのピンクに惹かれていることが最大の理由だが、ビルが隅田公園に面していて春には桜の雲海の中に建っている形になること、ベランダからのぞむ隅田川越しに向島の墨堤が一直線に見え、つまり桜並木が目の前に浮かび上がることも次に大きな理由であった。桜が映える家にしたかったのだ。

 義兄のはからいでKAKUDAIの全面協力を得、水栓はすべて好きなものを使い放題というありがたい申し出もあった。おかげで、「浅草でアジアのリゾートホテル暮らし」というコンセプトを成就出来たのである。ありがたいことだ。

 人に恵まれたのはこれだけではない。

 二十年近く引っ越しといえば、ジョイ引越しセンターのYさんに頼んでいるのだが、今回久しぶりに連絡するとおかしなことが起きたのだ。
 まず、受付の女性が「Y……でございますか?」と驚いているのがわかった。こちらは「ええ、いつもの通りYさんに見積もって欲しいので」と強く主張。すると、女性が困惑したように黙り込んだのである。
 そこに受話器をひったくるようにあらわれたのがYさんで、「はい! いつもありがとうございます!」と元気よく答えてくれる。さすがに俺の人生の半分ほどを荷物を通して見知っているYさんは、「今度もお近くですか?」といきなり本質をついた。

 電話を切ってからどうもおかしいと思い、会社のホームページをのぞいてみた。
 すると、なんとYさんは社長になっていたのだった!
 そのことをおくびにも出さなかったYさんを俺はかっこいいと思った。
 見積もりにはYさん一人が来た。作業服でなく背広姿だった。Yさんは相変わらず、自分が偉くなったことを口にしない。仕方ないので「社長に見積もってもらうなんてすいません」と俺は言った。
 Yさんは答えた。「いえ、いとうさんのお荷物ですから」
 ものすごく感動した。

 感動はそれだけではなかった。
 見積もりの値段がひどく低いのである。
 サービスにしても安すぎる設定。
 Yさんが帰ってから俺は気づいた。
 その値段はおそらく、俺が最初にYさんに荷物を運んでもらったときと同じ額だったのである。
 Yさんは俺の人生の節目に、原点を思い出させてたくれたのであった。


 ジョイ引越センター、がんばれ!


 それから、うって変わってChim↑Pom(例のでたらめなアート集団。いとう全面支持)の情報。
 以下が桜井(圭介)経由で彼らから来たメールである。
 ものすごくそそられる。


★11月8日より★
無人島プロダクションpresents
Chim↑Pom展 「サンキューセレブプロジェクト『アイムボカン』」開催、のご案内

会期:2007年11月8日(木)ー12月8日(土)
会場:無人島プロダクション
Opening Reception : 11月8日(木) 0-8pm 

Open : 木ー土 11am - 7pm(※月—水は事前にご連絡願います) 
日・祝 休
■初日(11/8)より、「チャリティーオークションカタログ」を無人島にて発売いたします。

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無人島プロダクションでは、11月8日より12月8日まで6人組アーティスト集団Chim↑Pom展「サンキューセレブプロジェクト『アイムボカン』」を開催いたします。
昨年末の初個展「スーパー☆ラット」では「都会に生きる人間とドブネズミ」を、今年7月に開催した第二回個展「オーマイゴッド」では「生と死」をテーマにした展覧会で注目を集めた彼ら。全員20代最後となる今年、3度目の個展となるこの「アイムボカン」では「セレブと地雷撤去」をテーマに展開します。

 現在、若年層を中心に、所得をはじめとする経済的格差が問題視されています。貧しいものはいっそう貧しくなり、富めるものはますます富むという社会構造は、21世紀に入り拡大の一途をたどるかのようです。そんななか、アメリカを中心とした「有名人富裕層」は「セレブ」と呼ばれ、日本の若者の憧れと尊敬の的となっています。また、上流階層には「チャリティー」や「ボランティア」などを行うことがある種当然とされる風潮があり、いわゆる「ノブレス・オブリージュ(高貴な義務)」による社会貢献を果たそうとするセレブが多いのは周知のところです。たとえば、マドンナ、アンジェリーナ・ジョリーによる孤児との養子縁組、U2のボノによる貧困救済や政治家との対話など、セレブが私財を投じて行うチャリティー活動は、数えあげたらきりがありません。

 Chim↑Pomメンバーの紅一点エリイ(23歳)は、中学1年生のときにダイアナ元妃のチャリティー活動に影響を受けた一人です。防弾チョッキと防弾マスクを身につけ地雷原を歩き、地雷の被害で手足を失った子供たちと対話し、世界に地雷廃絶を訴えるダイアナの姿。その姿をテレビで見たエリイは感動し、以来「セレブとして地雷撤去」したいという思いを強く持ち続けてきました。それから10年——、ダイアナの没後10年、対人地雷を禁止した「オタワ条約」署名から10周年にあたる今年、その思いは、Chim↑Pomの作品としてひとつの結実を見ます。

 Chim↑Pomの「サンキューセレブプロジェクト『アイムボカン』」は、彼らが私財を投じて(借金をして)カンボジアへ渡航し、現地の人たちと関わり合いながら制作したものです。撤去した地雷を爆破処理する際にエリイの私物(高級バッグなど)や、セレブ風なポーズをしたエリイを型どった石膏像などをいっしょに爆破させ、同じく現地で撮影した、チャリティーを呼びかける映像とともに日本に持ち帰りました。なお、この作品は、今年6月に広島市現代美術館「新・公募展」に出品し、グランプリを受賞しています。

 また、今回Chim↑Pomは、展覧会で発表するだけでなく、カンボジアへのチャリティーオークションを自ら開催し、カンボジアで制作してきた作品7点を競売にかけます。そして、そのオークションで落札された作品の収益のうち、彼らの取り分はすべてカンボジアに寄付します(エリイが映像作品の中で「自分たちの取り分はカンボジアに寄付します」と宣言しています)。

「作品をカンボジアで制作し、出来上がった作品をアーティスト自らオークションにかけ、その収益をカンボジアにまるごと寄付する」ことで完結するという経緯そのものが、この「サンキューセレブプロジェクト『アイムボカン』」のコンセプトなのです。
チャリティーオークション開催までの、一か月間にもわたる「オークションプレビュー」展を是非ご覧ください。
皆様のお越しを心よりお待ち申し上げます!

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<展覧会&イベント概要>
■展覧会
Chim↑Pom「サンキューセレブプロジェクト『アイムボカン』」展
2007年11月8日(木)ー12月8日(土)

<Open> 木~土 11:00am~7:00pm
(※月~水 appointment only)
<closed>日&祝

会場:無人島プロダクション
東京都杉並区高円寺南3-58-15 平間ビル3F
tel. 03-3313-2170  fax. 03-3313-2171
http://www.mujin-to.com


■イベント
Chim↑Pom「サンキューセレブプロジェクト『アイムボカン』」
チャリティーオークション
2007年12月15日(土) 5:30~8:00pm

会場:P-House
東京都港区元麻布3-1-35 c-MA3レジデンスB2F
http://www.phouse-web.com


 以上。 
 “「セレブとして地雷撤去」したい”という部分がなにしろ肝だろう(笑)。
 真面目なのかふざけているのか、決定不能な危険さ。
 それがChim↑Pomの魅力だ。
 つまりアートそれ自体の。

 まだまだ今日はある。

 翻訳家の若島正さんから対談の申し込みをいただき、その後メールもちょうだいした。
 チェスプロブレムのマスターでもあり、言わずと知れたナボコフの研究者でもある若島さん。
 俺はその若島さんを尊敬してやまなかったわけなのだが、なんと若島さんは俺がこの数年こつこつやってきたデュシャンのチェス本の翻訳ブログを読んでくださっており、それどころか俺が疑問を呈した部分について若島訳をつけてくれたのであった!

 新刊『ロリータ、ロリータ、ロリータ』(当然、若島さんが素晴らしい新訳をつけたナボコフの『ロリータ』の刺激的な読み解き)の出版記念対談は、12月18日、神保町東京堂神田本店にて18:30 より。
 「チェスと言語」に関するかなりラジカルな話になるだろうことが予想される。

 ラジカルといえば、今週土曜日、八王子別所の長池公園内で行われる柄谷(行人)さんの『長池講義 第一回』もそうとうな内容になるに違いない。
 まず高澤(秀次)さんの「国家論」。
 続いて、柄谷さんの『世界共和国論』のその後に関する話。
 そこからは俺が司会で、もうどうなるか不明。
 ほとんど危険思想の集会に近い雰囲気ではないかと思う。
 残念ながら入場者申し込みはすでに締め切りだろう。
 たぶん公安が入り口で張ってるね(笑)。
 
 
 今唐突に思い出したが、二十年ほど前、どこかの大学で柄谷さんと話す機会があった。
 そこで聴衆が僕に対して「彼は芸人であって、つまり彼の主張は決して真面目でなく、ふざけているに過ぎないのではないか」みたいなことを言い出した。

 そのとき、柄谷さんが即答した言葉がすごかった。

 「真面目であるか、ふざけているかの二分法に意味はない。重要なのは彼が現実的か、そうでないかだ」

 世界への構えが現実的であることと、真面目ぶっていることに関連性はないと柄谷さんは言ったわけである。
 笑いが真面目/不真面目を越境してリアルを追求出来ることの、これは根拠ともなるだろう。
 そして、もちろん文学が。
 しかし、柄谷さんはその後、近代文学は終わったと宣言してしまうわけなのだけれど。

 それから、「ミャンマー軍事政権に抗議するTシャツ」は現在、アンダーカバーで着々と出来つつあります。
 通販生活とのコラボも順調。
 で、僕の意思でTシャツのロゴは英語のみにしました。
 世界中に流通させうるシンプルさが大事だな、と思ったので。